水元保育園社会福祉法人_健翠会_認可保育園

“子ども主体の保育”を追求し続けたら
こんなに面白い保育園ができました。

水と緑の環境豊かな東京都葛飾区の水元公園に隣接する水元保育園は、「子どもを主体とする保育」を、真の意味で実践する認可保育園。子どもが環境と対話することを過度に邪魔せず、子ども自らが育つ力を信じて見守る。その保育にかける熱い思いを、茂澤尚平園長先生に伺いました。

水元保育園

水元保育園の特徴

園庭遊具も保育室のロフトもすべて職員の手作り。

手作りの井戸。水を出したり止めたりする感覚を、遊びながら体得していく
手作りの井戸。水を出したり止めたりする感覚を、遊びながら体得していく

何のためにつくるのか、そのねらいが大事

最初は何もなかったんですが、雨の日にも遊べるウッドデッキ(20m。園庭に面している)も遊具もすべて職員の手作りです。
ティピーテントをイメージした遊具も手作りです。子どもは高いところに登るのが大好きだから、当然、登ることを想定して作っています。「危ない!登らないで」とは言いません。足場が等間隔ではないので、一歩一歩確実に、自分で考えながら登り降りを行います。ティピーテントを設置後、落ちたりケガをする子どもがいないことがそれを証明していると思います。
園庭にはかなり高いのぼり棒もあり、その上にステージを設置しています。もちろんこのステージも登る子がいます。「こうすれば登れる」という思考力があり「ふざけて落ちたら危ない」という危険察知能力が身についているんですよね。
また、土でできた小山も、職員たちで土のう袋に土を詰めて固めたものを積み上げて作りました。土のう袋自体が自然に還る素材でできているんですよ。
通称“巨人砂場”の近くには、手作りの井戸(もどき)もあるんですよ。蛇口をひねって水を出すよりよりも、水を出す感触が分かってくるんですよね。よく「保育室の洗面台で水をじゃぁじゃぁ出すのはもったいないから止めようね」」と言っても子どもにはわかりません。園庭では一年中水を使います。水は学びの宝庫。子どもって体験を通して学んで初めて自分の感覚にしていくんですよね。

何のためにつくるのか、そのねらいが大事だと思うんですよね。作る前に、深い思考をすることで最適な環境が考えられます。

各保育室にあるロフトも、一級建築士さんや子どもの環境アドバイザーにアドバイスを受けながら、みんなで作りました。慣れたもので、ホームセンターから材料を買って運んで、大きなものでも3人で2日とかで作ってしまいます。箱イスも40個を2人で1日で作ったことがあります(笑)

保育室には「死角を作らない」のが保育の常識ですが、隠れたり落ち着いたりできる場所も必要ですよね。子どもにとって遊びは学び。大人の遊び=娯楽とは違いますから、思う存分自分の気のすむまでやっていい。そして子どもは知識欲の塊ですから、無理やりではなく、楽しんでできること。気が向いたときに、やりたい遊びでとことん遊べること、そんな環境を大人が用意するだけです。自分らしくいられる居場所があれば子どもは勝手に育っていく。

今、僕たちの園では、「子どもは自分で育っていくから、育つ力をサポートする環境を作ってあげよう、関わり方をしよう」という方針で保育を進めています。子どもは自分で考えて行動し、自分らしく無理なく居られる場所を自分で見つけられれば、勝手に育っていきます。でもまだまだ「子どもは守る存在」という考えから抜け出せない人が多いな、と感じます。大人が良かれと思って子どもを囲って、ケガがないように先回りして、声がけしたり干渉したりすることは、かえって子どもの成長発達を阻んでしまう場合もありますよね。

子どもが作り途中の作品は1週間保存。いつでも好きな時に続きを作ることができる。
子どもが作り途中の作品は1週間保存。いつでも好きな時に続きを作ることができる。

自分の過ごし方を自分で選ぶ

当園の子どもたちは、園庭で遊びたい、お部屋の中で過ごしたい、散歩に行きたい……毎日、登園したら自分の過ごし方を自分で選ぶことができるようにしています。やりたくなければやらなくてもいいんだ、自分は自分のままでいればいいんだ、そんな環境の中で自己肯定感も育っていきます。
3~5歳児は一緒に生活しています。3歳児は5歳児に刺激を受け、自然に自立していきます。もちろん2歳児ぐらいまでは大人の判断が必要な場面もありますが、異年齢保育は子どもたちの成長発達にとても良いと考えています。
例えば保育室のカレンダーには、来週はどこに行きたいとか、あれをやってみたいとか、そんなことを毎日2~30分、子どもたち同士で話し合って決めています。ゆくゆくは子どもたちだけで、保育が自主運営されているような(笑)子どもたちだけで成り立つ世界、そんな保育が実践できたら理想ですね。

例えば、「朝の会」などの時間はありません。「集まって!」と声をかけて“集まらせる”のではなく、楽しんで参加できるようにしています。サークルタイムといって、最初は2~3人集まって話していたら、少しずつ輪が大きくなって「あれやりたいね」「これもやろう」と子どもたち同士で話しが膨らんでいきます。

そしていま、園では「声がけをいかにゼロに近づけるか」という試みをしています。ていねいな保育と言いますが、干渉しすぎることはかえって子どもの成長を知らず知らずのうちに止めてしまっていることになると思うんですよね。
「がんばれ」とか「すごいね」という言葉はできるだけ使わないようにしています。同じように、クラス全員で一緒に何かをすることにもあまり意味はないんではないかと考えています。

水元保育園の保育について

何もなかった園庭に小さな砂山を
作ることから始めた、保育の大改革

各保育室のロフトはデザインも多彩。平面だけでなく立体空間があることで、子どもの遊びや生活の世界が広がる。
各保育室のロフトはデザインも多彩。平面だけでなく立体空間があることで、子どもの遊びや生活の世界が広がる。

僕が園長になってから、すぐに何か大きな改革に手を付けたということではなくて、最初はちょっとしたことからスタートしたんです。園庭には花壇しかなかったんですが、園庭の真ん中に1㎥(1m×1m×1m)ぐらいの大きさの砂山を置いてみました。そうしたら波紋を呼んだんですよ。「危ないじゃないか」という人がいたり、一定数は「子どもたち楽しそうに遊んでましたよ」という人もいたりとか、小山の上に子どもが乗っているだけで、リアクションも賛否両論ありました。
こども環境アドバイザーの人に、他園の取り組みや実践内容を教えてもらったり、研修をしたりといった取り組みも並行して行っていきました。そして簡単なパーテーション作って、ちょっとしたコーナーを作ってみましょうということになりました。

そんなことをするうちに、徐々に子どもたちが落ちついて過ごせるようになったなっていう実感が出てきました。じゃあ次はこうしよう、ああしようといろいろなアイディアを形にしていきました。正直最初の1、2年ぐらいは、言われたからやってる、命令みたいな感じで受け取っている職員が半数以上いたかもしれません。

何曜日はどこに行く?何をする?子どもたちが話し合って決めた予定が書き込まれたカレンダー。
何曜日はどこに行く?何をする?子どもたちが話し合って決めた予定が書き込まれたカレンダー。

自分でトライ&エラーができる子を育むこと

入園申込みをする前に、園の方針を分かって入ってきていただきたい、いろいろお話をしたいと思ったので、今年度は計3回、入園説明会を行いました。場所が限られていたので、8家庭を上限にして行いました。ありのままを伝えているので、合う合わないは人それぞれですし、他にもいろいろな園があるから、合わないなと思ったら無理しないでくださいね、ときちんと伝えています。
入園後もやっぱり合わなかったなって思ったら転園も選択肢だと思っています。

汐見稔幸先生の研修を受けたときに、目指している保育の方向性は間違っていないんだな、と確信しました。「今の子たちが大人になる時代を考えてみましょう」っていう所から始まって「10年、20年後の世界はどうなっているかわかりますか」と。ここ1、2年だけでも時代はものすごいスピードで変化しているわけです。そういう時代を生きる子たちに、大人が、今のあたりまえを植え付けることって、意味がありますか?と投げかけられました。

本当にその通りだな、と思ったんですよね。大人のあたりまえを押し付けることは必要ないなと。僕たちが目指す保育は、大人の話をよく聞く子に育てることではなくて、自分で考えて行動して、間違えても「何がダメだったんだろう」と自分でトライ&エラーができる子を育むこと。日本人はそれができる人が少ないと思います。我々とおなじ性質の子に育てちゃいけないと思います。本質的なことに気づいていながら、子ども主体の実践が遅れているし変化もあまり感じられない、そんな保育業界に危機感すら感じます。

だからこそ僕たちは、もちろん言葉で言うほど簡単なことではないけれど、本当の意味で子どもが主体の保育を実現していく園を目指したいと思っています。

とはいえ、新しいことに挑戦するってやはり怖いですよね。共感はしてくれても具現化するのが難しいですから、最初引っ張っていく人が必要。僕や主任がその役割を担っているのだと思います。職員だけでなく、保護者に向けても、僕たちが目指している保育の考え方について発信していくようにしています。

水元保育園の行事について

子どもを真ん中に、保護者は仲間!
大人もとことん楽しむフェスティバル

3~5歳が一緒に過ごす保育室は広々。それぞれが思い思いの場所で過ごしている。
3~5歳が一緒に過ごす保育室は広々。それぞれが思い思いの場所で過ごしている。

保護者の皆さんもとても協力的です。「保護者対応」という言葉も本当は、好きじゃないんです。同じ子どもたちをみる、一緒に子育てをしているという立場は一緒なので、“仲間”になるべきなんですよね。
だから遊具づくりとか、大きい規模の物を一緒に作りませんか、という集まりを年度末にやったりするんです。コロナ禍なので、今は全然出来てないんですが、コロナ禍前の一年半ぐらいは約4、5回行いましたが、一番多い時は保護者が30人ぐらい来てくださいました。こちらの地域は下町文化の名残なのか、とても話しやすい人が多いと思います。

保育園で大きい行事は2つ、運動会と発表会。
運動会は、2年前からネーミングを変えて「水元フェスティバル」という名前にしました。スポーツの祭典みたいな感じで、大人も子どもも体を動かすのを楽しもうということです。練習は一切しません。日常の延長です。子どもたちはもちろん、大人も思いきり楽しんでいます。ソーラン節を大人が躍るんですが、はっちゃけてる大人の姿を見て、1人でも多くの子どもが刺激を受けてくれるといいな、と思っています。

発表会も「表現の日」という名前に変更しました。学校の文化祭のような位置づけです。子どもブースと職員ブース、保護者ブースもあるんです。
例えば茶道をやっている職員が茶道ブースを開いていたり、剣道部出身の先生が、子ども用の竹刀を買って一緒に戦ってみたり。ストラックアウトも木材で自作しました。

自由参加で、この歌がすきだから歌う、とか、なにか作るのが好きな子は展覧会みたいに作品を展示したり。10人いたら10通りの参加の仕方でいいよねって感じでやっています。当日は、ただ回るだけの子もいますしね。

ほんとに好きな事を、自分の好きな事をやろうという企画です。僕も実は保護者向けにマネーリテラシー講座を企画しているんですよ。伝えたいことが多すぎて。素人の僕がやることに意義があるかなと思っています。資産形成って大事ですからね。子どもたちや20代30代の保護者にこそ、聞いてもらいたいなと思っています。

水元保育園の研修について

みんなで意見を出し合い一緒に考え、めざす保育をどんどん具現化したい。

「子どもが自分たちで考えて生活できるような保育ができたら最高ですね!」と語る、茂澤園長先生。
「子どもが自分たちで考えて生活できるような保育ができたら最高ですね!」と語る、茂澤園長先生。

とにかくたくさん話し合います。

毎日のように2つ3つ何かしらミーティングが行われています。会議やミーティングの計画は、すべてシフトや年間計画に組み込んでいます。

大人数での職員会議は、あまり意味がない。理想は4~6人ぐらいがちょうど良いと思います。10人20人の場で、「何か意見ありますか」と聞いてもなかなか意見が出ないことが多い。一人目が言ったことを受けて「僕も同じです」と言ったりして、不毛な会議になりがちです。特に若手の先生は気後れして、参加しづらいと思うんです。

そこで誰でも意見が言いやすいように、付箋を活用しています。自分の意見や疑問を整理して書き出していく。何個でも、短く10文字以内ぐらいで書いてもらって、それを大きい紙に貼っていきます。似たような意見やアイディアがあれば、上に重ねていってもらい、意見の抽出をしてそれをまとめていくみたいな工程を踏んでいます。付箋に書くことで、分かりやすく言語化されるし、「こういうことに困っているんだね」「じゃあどうしようか」と一緒に考えて、決めていきます。

職員会議も、せっかく集まってもらうので意味のある会議にしたい。その場で周知したいことは10分から15分ぐらいでパパっと手短に伝えます。そのあとは基本的にはさまざまなテーマでグループディスカッションしてもらっています。幼児クラスの会議は毎週木曜日にやっているんですが、3、4、5歳児クラスの担任全員が集まって、1時間程度時間をしっかりとって話しています。

どんなに小さなことも、一緒に考え意見を出し合い、保育を作っていく


「園庭づくり」をテーマにしたミーティングもあります。園庭係がいるのですが、係の先生だけで園庭のことを進めていくのではなく、各クラスから1人ずつ参加しています。例えば、現在の園庭について「こういう要素が足りないよね、欲しいよね」といったアイディアや意見を予め出してきてもらって、次回建築士の人が来る時に、これを相談しよう」といったことをまとめています。
どんなに小さなことも、一緒に考え意見を出し合い、保育を作っていく。それが当園の強みの一つだと思います。

園内研修で今年力を入れているのは、排泄についてです。「トイレトレーニング」という言葉があるじゃないですか。
そもそも、トイレトレーニングって、「練習させなきゃ」と、大人が主導みたいな感覚がありませんか。そこで名前を変えようって話があって。
そこで「排泄コミュニケーション」という言葉にしたんです。ある本に載っていた言葉なんですけどね。2歳になったから急遽するものでもない。0歳のときから継続して、「排泄って心地良いな」という感覚を持てるようにするところから始まります。トイレはイヤイヤ行く場所じゃないよ、ということを伝えていく。言葉って結構大事かなと思うんです。

0、1、2、3歳ぐらいまでは、排泄のステップアップについても園全体で、しっかりと軸をもって丁寧にかかわっていくことが大切かな、と思ったんです。不定期ではありますが、各クラスの担任が参加して、時間をかけて取り組んでいます。

求職者へのメッセージ、求める人物像

有休取得率は100%以上!
みんなが働きやすい職場をめざして。

本の貸し出しコーナーには、子育てに役立つ本だけではなく、園長おすすめのマンガも!
本の貸し出しコーナーには、子育てに役立つ本だけではなく、園長おすすめのマンガも!

転職した先で「前の園ではこうでした」、という方がいますよね。そういう人は自責思考がないのではないかと思います。「僕は、こう思います」という言い方ができる人は自責思考で考え行動できる人です。そういった人物を水元保育園では求めています。
またよく「人と関わるのが苦手ですが子どもは好きなので保育士になりました」という人がいるのですが、やはり保育の仕事はどうしたって人とかかわる仕事です。子どもはもちろん、保護者や職員にもかかわっていく仕事ですから。でも普段から人と関わりすぎて疲れてしまう、その気持ちはよくわかります。人並みの対人能力、そこが大事かなと思います。
1年に、最低3回は園長または主任による職員面談をしています。最初の数年は職員も保護者も入れ替わりがあったのですが、去年から今年に代わるときに退職した常勤職員は一人もいません。

働きやすい環境を作っていこう、ということにかなり力を入れています。少なくとも僕が園長になって2年目以降は有給消化率が100%超えているんですよ。付与日数よりも、取得日数の方が多いんです。過去に貯まった分があるので…
「取らないです、溜めておきたいです」ということをいう人には、一人二人がとらない人がいると、他の人が取りにくくなるからね、と言ってできるだけ取ってもらうようにしています。今では、遠慮して有休をとりづらい、ということはなくなっていると思います。そしていま、主任保育士が、育児休暇を取得しています。男性でしかも管理職が育休を取ったらみんな休みやすいじゃないですか。

子どもと同じように、大人も自分らしくいられる環境の方が成長に繋がっていくと思っています。「おもしろいことやってるな、あそこに行ってみたいな」そんなふうに思って、新しい仲間にも来てもらえたらもらえたら、とても嬉しいですね。

取材を終えて・・・

すべては子どものために。
保育の本当の楽しさと可能性を実感する保育園

園長先生のお話を伺いながら園を案内していただいていると、「面白い!」という言葉を何度も言っている私がいました。子どもの環境について、ただ机上で考えているだけではなく、“ねらい”をしっかり考え抜いたうえで、職員や保護者の協力のもと、どんどん形にしていく。そして子どもたちは、各々が心地よい場所で自分らしく過ごしている……その自然体な姿に、これからの保育園の未来を見たような気がしました。

この保育園の施設概要

施設名 水元保育園
勤務地 東京都葛飾区南水元4-18-11
最寄り駅 JR常磐線:金町駅北口 京成バス金62 (大場川水門行き)~水元公園下車徒歩2分

写真でわかる!保育園の様子

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