豊玉保育園社会福祉法人 高洲福祉会

子どもが主人公の「昼間のおうち」。
生活の中で育まれる感性を大切に。

昭和36年に開園した「練馬区立豊玉保育園」。商店街を抜けた閑静な住宅街の中にある定員130名の園です。長年にわたり区の公務員として勤務し、保育者、そして園長として、多くの子どもの育ちを見守り続けてきた園長・浅村都子先生にお話を伺いました。

豊玉保育園

基本的な考え方

子どもも大人もゆったり過ごせるよう
穏やかであたたかい保育環境づくり

ゆったり過ごせる保育室。子どもの月齢や発達に合わせて柔軟に間取りが変えられるよう工夫している
ゆったり過ごせる保育室。子どもの月齢や発達に合わせて柔軟に間取りが変えられるよう工夫している

園の歴史は古く、創立は昭和36年。練馬区で一番古いんですよ。
私共の社会福祉法人が受託して、今年で3年目になります。建物は5年前に建て替えを行っており、まだ新しい園舎です。
1階は3,4,5歳児、2階は0,1,2歳児室になっています。
広い園庭とプール、テラスもあり、子どもたちがゆったりと過ごすことができます。

私は、保育園は「昼間のおうち」だと思っているんです。
主人公は子ども。だからこそ成長発達に合わせて過ごしやすいよう、改善と工夫を重ねています。使いづらいところは修繕したり、手作りで新しい家具や建具を作ったり。
保育園が7LDKぐらいの、大きなおうちだとして、ふつう、家には事務所なんてありませんよね?だから、事務所ではなく「おひさま」と呼んでいます。おうちの中の要であり、「みんなを照らしているよ」という想いも込めています。そして調理室・給食室、も「キッチン」です。おうちですから、基礎工事がちゃんと出来ていないといけない。その基礎工事の地盤が、保育の理念なんです。

乳幼児期から、長時間をすごす保育園。だからこそどんな環境で過ごすかが大事です。
保育活動の中には、生活の再現遊びをふんだんに取りれています。自分たちが経験したことが再現して遊べるコーナーです。大人がやらせるのではなく、子どもたちから遊びが生まれ、遊びの中から創造力や集中力、そして思いやりの心が生まれていきます。
私たち大人は、その環境をつくるのが役目です。
大人にとってもそれは同じ。ですから職員室には畳のスペースも設けて、職員が少しでも体を休められるようにしています。

保育環境

手作りの工夫がいっぱい!
アイディアを出し合い、形にする喜び

0歳児は月齢差もありますので、「ここは何をするところ」ということが認識できるように、棚や柵などで適宜仕切り、発達に合わせて間取りを変えながら、ゆったりと生活できるように工夫しています。また、視界に入るもの極力余計なものは置かないように。基本的には、子どもに必要ないものは目に見えるところには出しません。棚にカーテンを付けて見えないようにしています。

受け入れコーナーは、廊下から荷物が出し入れできるようになっているんですが、大人にとっては便利なようで、子どもにとってはバタバタとトビラが開くたびに遊びが中断したりして落ち着かないんですよね。ですから0,1歳の保育室内側は塞いでしまいました。代わりに、壁面に手作りの玩具をつけたんですよ。スライドできるようになっているから、発達に合わせて取り外せるようになっているんです。

壁面の有孔ボードを活用した、手作りの玩具。手指の微細運動を促すいろいろな玩具がたくさん! 自在に入れ替えもできる
壁面の有孔ボードを活用した、手作りの玩具。手指の微細運動を促すいろいろな玩具がたくさん! 自在に入れ替えもできる

また各保育室に室内カメラを設置しています。子どもを守るという意味ではもちろんですが、私たち職員も守る意味もありますし、怪我の状況をお伝えするときも状況によりますが、カメラを見ていただくことで、保護者の方に安心していただくこともできています。もちろん保護者の方とは丁寧にお話するようにして信頼関係を築いています。

私は34年公務員生活だったんですね。公立の時代はお金がなくて。材料だけ集めて、トンテンカンと、いろいろなものを工夫して作っていました。その経験が今に生きているかな。園舎内で使いづらいところがあれば、ひとつひとつ考えて、改善します。
アイディアを出すと、何でも形にしてくれる、職人さんのような素晴らしい職員がいるんですよ! 本当に助かっています。みんなでどうしたらもっと良くなるか、過ごしやすくなるか、を日々考えて保育環境を整えています。

絵本への想い

たくさんの良い絵本と出会ってほしい
絵本の貸し出し「とよたま文庫」

子どもの動線を大切に。可動式でおしゃれな「どこでも手洗い」も手作り。キャスターやハンドソープ置き場もついている
子どもの動線を大切に。可動式でおしゃれな「どこでも手洗い」も手作り。キャスターやハンドソープ置き場もついている

0~2歳児ぐらいの時期は、絵本を自分で読む、というよりも、踏んづけたり破ったりと、おもちゃになってしまう場面を、他園ですが見た経験があります。があります。絵本は、絵本作家さんが心を込めて作った作品でもありますから、大切に扱うものという捉え方をしています。ですから、乳児期の間は、絵本をあちらこちらの棚に玩具と一緒に置くのではなく、子どもが見えるところ、だけど子供の手の届かないところに置き、読み聞かせをするようにしています。乳児も幼児も毎日たくさん絵本を読んでいます。併せて玄関ホールに「とよたま文庫」という絵本貸し出しコーナーを設けています。絵本の年間計画を作成し、それを保育活動に取り入れるとともに、保護者にも共有しています。

玄関ホールにある:絵本の貸し出しコーナー「とよたま文庫」。絵本の年間計画を立て、すべてのクラスで絵本の時間を大切にしている
玄関ホールにある:絵本の貸し出しコーナー「とよたま文庫」。絵本の年間計画を立て、すべてのクラスで絵本の時間を大切にしている

そして私自身は言葉にも、こだわっています。
たとえば「片づけて」という言葉も使わない。「元に戻してね」と言ったほうが子どもには伝わったりします。給食も「食事」「ごはん食べようね」と言います。
自然に、生活している中にある、言葉を大切にしています。

私は子どもたちから、園長先生、ではなく「みやこさん」と呼ばれているんですね。役職は園長ですが、だれかの先生なわけではなく、同じ生活を共にしている人。大人同士も「ちゃん」ではなく「さん」づけで呼びます。姓で呼ばれたいか、下の名前で呼ばれたいか、それは本人に選んでもらっています。
昼間のおうちだからこそ、大人の服装も、清潔感のあるものであれば自然でいいんです。

保育で大切にしていること

「いつでも、そっと見守っているよ」
おばあちゃんの心持ちが、ちょうどいい。

長年の保育園生活で社会の移り変わりも見つめてきました。
いま保育に携わって55年目ですが、もうそんなに経ったのかな、と思います。あっという間でしたね!55年といえば、半世紀。百年の半分以上ですからね。
もはや“ばあば”の気持ちです。

時代は変わっても、子どもは変わらない。
保育ってね。「おばあちゃんの心持ち」がいいんです。
年を重ねるごとに思います。

おばあちゃんって、子どもの後ろからついて行ってあげて、そっと見守っているでしょう。「あなたのことをちゃんと見てるよ」っていうね。だから心持ちは、ばあば。おばあちゃん。
若いときは自分が前に出て、子どもをリードしている時代もあったと思うんですが、長く仕事させてもらっていると、だんだん、おばあちゃんの気持ちっていうのは大事だなって思いになって。見守るって、保育の基本だと思います。

地域交流・保護者との関係について

地域と園をつなぐ「CC」が大活躍!
保護者の皆さんも、ともに園をつくる

当園には「コミュニティ・コーディネーター(CC)」がいます。地域と園をつなぐガイドの役割をしてくれているんですよ。
実はずっとCCを園に置きたかったんですが、なかなか実現しなくて。今年からスタートしました。
保育園は地域の一員。地域とつながり根ざしていくことこそ、子どもの育ちはもちろん、園が継続していくためにもとても大切な視点だからです。

CCの職員が、自転車で地域を回ってくれて、どんどん開拓してくれているんです。例えばこんど、味噌作りをするんですが、味噌を作っているお店に行って掛け合ってくれて、園に来ていただいて教えてもらうことになったんです。園見学の方の対応などもしてくれています。また「こんな公園に行ったんですが、良かったですよ」「今度こんなイベントがあるみたいですよ」など、地域の情報収集をしてくれているんです。「CCだより」も発行してくれているんですよ。保育活動に広がりが生まれて、いろいろな人とつながっていくのは楽しいですし、とても頼もしいですね。

保護者の方とは、園の運営を受託した直後は信頼関係もまだできていませんでしたが、私たちの想いを毎日心を込めて伝えることで、少しずつ理解していただけるようになって。いまでは保護者の方が園内のペンキ塗りや園庭の築山作りを手伝ってくださるなど、とても良い関係性を築くことができていると感じています。

例えば先日に「くじらまつり」があったんですよ。浴衣を着てね。その様子をビデオで撮っておいたんです。それを夕方のお迎えの際に、「とよたま文庫」のところにプロジェクターを置いて、保護者の方に動画を見ていただきました。おうちに帰ってからも、親子の会話が弾みますよね。玄関ではデジタルフォトフレームで、毎日の活動を流しています。

職員研修・人材育成

法人全体の研修や園内研修も充実
学び成長し続けられる職場環境

行政主催のキャリアアップ研修の講師の依頼も多くて。
若手の人を対象に、乳児保育で大切なこと、社会人として…といった内容で、先生向けの研修をしています。その中で、職員の質も時代と共に変わってきたんだな、と感じます。区の公立園も計画的に公設民営化していますしね。

法人全体では、合同研修を行っています。3園集まって、各園の取組をそれぞれ発表します。園長と職員の面談は年3回あり、キャリアシートに沿って行います。
10月には中間の振り返りを行い、後半に向けて、保育の内容について職員間の意識共有や確認などをしてもらっています。
年度末の土曜日には、全職員が集まり、法人の方針や園長としての想いを伝え、クラスに分かれて次年度の準備をします。全職員一丸となって、園の基本理念を確認し、保育の質について考える機会になっています。

当園の職員は、本当に子どもにとって自分たちがすべきことが何かな、ということをちゃんと考えてやってくれているので、とても信頼しています。時々そうじゃない場面があったら、ちょっとリーダーに話したりします。

私はだいたい毎日、園内をぐるぐる歩いています。「環境はどうかな」「あの子はちょっといつもと違う様子かな」という視点で、さりげなく。ぱっと保育に入ることもありますね。
観察していて、「この遊びはいいけど、ちょっとあれは無理かな?」など、気づいたことはさりげなく伝えます。
忙しいとなかなか回れないこともありますが、そういうときにはちょっと罪悪感を感じてしまいます。

保育日誌は毎日読んでいます。読むだけでも1時間以上かかっちゃいますけどね。でも、保育の様子がよくわかる。
そして日誌などを読んでいて気づいたことは、青鉛筆で書き込んでいます。
書類が苦手な人は、なぜ書けないかというと、子どもを見ていないんですよね。アンテナが低い。「書かされてる」ではなく「これを書きたい、あれも書きたい」という気持ちで書くとね。いっぱい出てくるんですよ。保育の書類やクラスだよりを書くのって、本当に大変なんです。でも力がつきますよね。より良い保育にもつながっていきますしね。

人材育成について

大人も子どもも同じ。
褒められてこそ人は伸びる。

子どもって、ダメなことばっかり言われるじゃないですか。ダメなことばっかりじゃなくて、やっていいことを教えてあげた方がいいと思いますよ。なんかやったことを注意するのではなく、その前に「こうやったらいいよ」と示してあげたのかしら。示してないのに注意されたら、子どもも納得いかないと思うんです。だから「こうやったらいいよ」って言って、「良かったね。いいね!それでいいんだよ」と、子どもにちゃんと発信できているのかということを、振り返ってみる必要があると思うんです。
大人も同じです。「これいいね」って言われた方が嬉しいじゃないですか。

やったときにちゃんと褒める、認める。「それが良かったんだよ。それでいいんだよ」ってね。失敗したときは、本人が一番、「しまった!」と落ち込んでいると思うのです。
保育園では、とにかく主人公は子ども。意見がぶつかったりしてもいいんです。

忘れてはならないのは「それは子どもにとってどうか」という視点を持つことです。
私も園長ですが、いち保育者でもありますから「私はこう思う」ということは言います。ぶつかったとしても、「誰のためにものを言っているか」「それは子どもにとってはどうかな?」と。いつも原点に戻って考えること。そして、子どものことを一番わかっているのは、園長や主任ではなくて、新人もベテランも関係ない。クラス担任のあなたなんだよ、だから自信持っていいんだよ。って伝えています。

求める人材は、子ども一人ひとりを、一人の人間として受け止められる人ですね。そして、人の話を聞く力、そして話を聞いて自分で考えて行動する力。当たり前だけど、なかなか難しいと思います。日々の保育の中で、少しずつでいい、成長していってもらえたら。そして何よりも、子どもが主役の「昼間のおうち」の仲間として、子どもたちの成長を見守ってくれる人。そんな仲間との出会いを楽しみにしています。

(取材を終えて)

陽だまりのような、園長先生の笑顔が
人として大切なことを教えてくれる

「おばあちゃんの気持ちで」とおっしゃる、みやこさん、こと浅村園長先生。お話しているだけで、心がほっこりあたたかくなりました。子どもも大人も穏やかで、静かな時間が流れています。明るくておちゃめなお人柄が、園内にあふれています。とにかくおしゃれな手作り家具があちこちに! いつまでもお邪魔していたくなるような気持ちになる素敵な保育園です。

この保育園の施設概要

施設名 豊玉保育園
勤務地 東京都練馬区豊玉中4-13-6
最寄り駅 練馬駅 徒歩12分

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