石神井さくら保育園社会福祉法人 高洲福祉会  

自分らしく、安心してすごせる場所で
保育の流れ「日課」を大切に

練馬区立保育園の公設民営化により今年で12年になります。立ち上げ当初からクラス担任として園づくりに携わってきた有馬聡子園長先生は、「長い時間保育園で過ごす子どもたちが、少しでも安心して過ごせるような、昼間のおうちでありたい」と話します。人が人として生きていく上でとても大事な力、根っこを育てるために……あたたかな時間の流れる園内を見せて頂きながら、保育の中で大切にしていることなどについて、お話を伺いました。

石神井さくら保育園

保育で大切にしていること

豊かに遊び、生活すること
ふつうの毎日を、安心して過ごせる場所

乳児からゆったりくつろげる、家庭的な保育室。発達に合わせて間取りも工夫。
乳児からゆったりくつろげる、家庭的な保育室。発達に合わせて間取りも工夫。

20代の頃、現理事長の樋口が毎年開催していた海外研修があり、ドイツに行きました
その中で、民泊というプログラムがあり、2泊3日、ごく普通のドイツ人のご家庭にホームステイをしたんです。もう一人研修に参加していた人と一緒だったのですが、ドイツ語が話せるわけでもないし、とにかく不安でいっぱいでした。

高齢の夫婦のご家庭ですし、いったいどうやって時間を過ごしたらいいのだろうと思っていたのですが、心からの笑顔で迎えてくださって。一緒に散歩をしながら村の中を一つひとつ丁寧に案内してくださったんです。ドイツ人は、1~1時間半ぐらいかけて散歩をする人が多いらしいんですね。友人のお宅にも一緒に連れて行っていただきました。2泊3日ではありましたが、すっかり打ち解けて、涙でお別れしました。そんな交流の体験が強烈に心に残っています。

ドイツから帰国後、子どもにとって「保育園ってどんなところなんだろう」と改めて考えました。民泊ではワクワクもありましたが、同時に言葉や環境も全く違う場所で、漠然とした不安感も体験したわけです。
保育園に通っている子どもは、ある日いきなり知らない大人がいる、知らない場所にポンと放り込まれるわけです。大人でも不安なのに、子どもたちにとっては本当に不安でしかないですよね。

まず「保育園というのは、こういうところだよ」「いまは、何をする時間なんだよ」ということが、子どもたちにとって分かりやすいように、「日課」を大切にしています。日課とは、保育園の生活の流れです。見通しをもてる生活=日課が子どもにとって分かりやすい、見えやすいことこそが、安心感につながっていきます、ですから日課を一番大切にしています。

保育環境

普通の日こそ大切だから
人も環境。見通しをもって柔軟に

 絵本の世界が広がる幼児の部屋。子どもたちの発案で、さまざまに変化する。
絵本の世界が広がる幼児の部屋。子どもたちの発案で、さまざまに変化する。

小さいクラスほど、ここが何をするところ、いまは何をする時間ということが分かりやすいように、保育室でも、しっかりコーナーで分けて、見える化するようにしています。毎日の“普通”が分かってくると、「今日は特別な日なんだね」ということも楽しめる。毎日特別な日ではなく、普通の毎日を大切にした保育、そこに心をかけています。

幼児クラスになると、例えば、「今日は、運動会の前だから特別こういうことをするんだね」など、普通がわかっているからこそ、楽しみにもなってきますね。
子どもたちは遊びの中で成長していきます。「今日はいまからこれをする時間ですよ」と大人が主導で指導するのではなく、自分で考え、選び取って、やりたいことを見つけられるような保育環境を整えること、そして遊びや生活が豊かになるような働きかけをすること、それが保育者の役割だと考えています。
延長保育時間以外は、子どもの安心につながるように、できるだけ自分のクラスで過ごせるようにしています。そのため、クラスによって子どもの登園時間がまちまちですので、クラス毎に勤番体制を整えるようにしています。保育者自身も環境のひとつですので、子どもが多く在園する時間帯に合わせて配置するように調整しています。

園庭も、毎年少しずつ環境を整えて、好きな遊びの選択肢が増えるように工夫しています。園庭の木も、遊びにつながる保育環境の一つと考えています。ムクロジの木は、実に水を加えると泡立ち、シャボン遊びができるのでお勧めの木です。

絵本とのかかわり

絵本は、最初に出会う文化
言葉と感性、創造力を豊かに育む

「現場が大好き、保育が大好き!」と話す、有馬聡子園長先生。
「現場が大好き、保育が大好き!」と話す、有馬聡子園長先生。

日本は、良質な絵本が割合に安価で手に入りやすい国、世界的にも絵本文化が優れていると認められている国の一つだと思うんですけれども、子どもたちが出会う文化の最初の一つでもある、絵本とふれあう時間や体験を大切にしたいと考えています。豊かな言葉に触れる機会も絵本から生まれますよね。そこで絵本の年間計画を立て、発達に合ったもの、この時期に楽しんでほしいというものを厳選して保育活動に取り入れています。

各部屋に絵本コーナーがあります。0歳児クラス前半では、「絵本を読んでもらうのは楽しい」というよりも、「触ってみたい、かじってみたい、なめてみたいモノ」と感じている時期があります。何度も繰り返し読んでもらうと、同じ絵と同じ言葉がつながり、「絵本を絵本」として、大好きな大人と一緒に楽しめるようになっていきます。

絵本はおもちゃではありませんので、大事なものとして扱ってほしいのですが、まだ手指の動きが未熟なため、子どもにまかせておくと意図せずに破ってしまうこともあります。絵本は子どもが読んでほしいとき、大人が読んであげたいときに、大人が基本的には1対1で読んであげるようにすることを大切にしています。一方で、子どもが自分でめくってみたいという欲求を満たせるように、めくることのできる手作りのおもちゃを用意するようにしています。

そして微細運動が発達して、絵本の扱いも上手になってくる2歳の後半ぐらいから、絵本棚を子どもが手の届く高さに下ろします。
赤ちゃんの頃から繰り返し読んでもらった絵本を、自分で手に取って楽しめるようになると、ますます子どもたちにとっての絵本は特別な存在になっていきます。私たち大人はその環境をどれだけ豊かにしてあげられるか、ということを大切にしています。

育児担当保育

生活が自然に流れる、育児担当保育
一人ひとりに寄り添い、丁寧に

離乳食は、一人ひとりの手や口の動き、食べ物への興味を見ながら丁寧に進める。
離乳食は、一人ひとりの手や口の動き、食べ物への興味を見ながら丁寧に進める。

食事も同じです。安心して楽しい雰囲気の中で、いろいろなものを食べるうちに、好きなものが増えていく、そんなことを大切にしたいと考えていますので、食器や食具も、子どもが使いやすく上手に食べやすいものを選んでいます。

毎日、同じ大人と同じ場所で食事することで、子どもたち自身も、「ここは食べるところ、いまは食べる時間」ということもわかってきます。そして他の子どもたちは、「今自分たちは、向こうで遊ぶ時間」ということがわかっていきます。ので、食事のコーナーに入ったりすることもなくなります。
もちろん新入の子どもは、最初の2週間くらいはルールがわかっていないので泣いてしまうこともありますが、最初だけです。まもなく「あの子たちが食べ終わったら自分たちが、この大人と食べるんだ」と手を洗って、拭いて、自分の席につく。そして「いただきます」をして食べる、という流れがわかっていきます。

食事のグループは、単に月齢で分けているわけではなく、保育時間の長さや朝早く来ている子、早く眠くなる子、なかなか寝られない子、食具の使い方の上達の具合など、その子の特質によって分けています。 例えば1歳児クラスでは、1グループを4~6人ぐらいで構成して、担当の大人と食事しています。
0歳児クラスで離乳食を食べるときに、抱っこで食べさせる段階で、どのくらい食べ物に手が出るか、興味の持ち方や手の動きなども様子を見ながら進めます。介助スプーンに載せた食べ物を、最初は口の前までもっていって、だんだんスプーンにも手を伸ばして、自分で取り込もうとするかどうかを大事にしています。スプーンに手が伸びるのがなかなか遅い子もいますが、その子のペースで自分で手を伸ばして食べる、という想いが叶えられるようにしています。

子どもが座位をとれるようになるまでは、担当の保育士が1対1で抱っこで食事をします。座位が安定してきてお座りできるようになると、椅子に座って食事をします。だんだんスプーンで食べることが上手になってきたら 1対2に。0歳児から1歳児クラスに移行するときに食べ方、手の動きなども担任から丁寧に引き継ぎます。2歳になる頃には、こぼさずに食べられるようになってくるので、エプロンも子どもによっては着けなくなります。

行事・言葉がけ

行事は保育のエッセンス
言葉は一つひとつ“手渡す”

家庭には、絵本はもちろん、ボードゲームの貸し出しもしており、とても好評。
家庭には、絵本はもちろん、ボードゲームの貸し出しもしており、とても好評。

毎日の普通の生活の中での育ちを大切にしていきたい。ですから、理事長の樋口がよく言っているのですが、ロープを登っていくときに、ただのロープだと登りにくいんだけど、ちょっと途中で結び目があると足掛かり、手掛かりになって登りやすい。行事にはそんな意味があるということですね。結び目=行事がいっぱいあることには意味がない。ちょっとグッと頑張れる、それをきっかけにまた成長していける、そういうものであってほしいなと考えています。

ですから例えば運動会も、親子で楽しめる日になったらいいなというコンセプトで開催しています。玉入れや綱引きなど、説明がなくてもすぐできるような競技を取り入れています。日頃遊びの中でも楽しんでいて、運動会ですぐに楽しめるように工夫しています。
一方で年長児になると、人に見せる、ということもだんだん喜びになってくる時期でもあります。年長児では毎年恒例で「パラバルーン」をやるのですが、憧れのパラバルーンの練習のときにはグッと集中しています。ただ、長時間・長期間練習するのではなく、2週間以内の練習期間で仕上がる程度の内容とし、子どもが楽しくて、「もっとやりたい」という気持ちで取り組むようにしています。。

行事とは少し話題が変わりますが、保育の中で大切にしていることの一つに、「言葉」があります。集団の保育の中で忙しかったりすると、大人側はつい言葉を、ばらまきがちになってしまいます。石神井町さくら保育園では、言葉というものは、“一人一人に手渡すもの”なんだよ、ということを伝えています。「これはしてはいけない」という否定的な伝え方ではなく、肯定的にやって欲しいことを、一人ひとりに丁寧に手渡すことを大事にしています。

基本的生活習慣

排泄の感覚を自然に身に着けながら
家庭とも連携して進める

憧れのパラバルーンの練習中!お披露目に向けて楽しみながら取り組む。
憧れのパラバルーンの練習中!お披露目に向けて楽しみながら取り組む。

現代のおむつの主流は紙おむつですが、石神井町さくら保育園では布おむつを使用しています。「今どき布おむつを使うの?」と思われる方もいらっしゃると思います。
布おむつ、紙おむつ、それぞれに長所・短所がある中で、布おむつを使うことを選択している理由をお話します。

布おむつはおしっこやうんちをすると、濡れて不快感が生じます。
これは一見短所のようにも思えますが、そこが大切だと考えています。
不快を感じていたおむつから、きれいなおむつに替えてもらうと、さっぱりした、すっきりした、気持ちいいという事を感じます。この不快と快を自分の身体でしっかりと感じる事が大切です。

また、おむつ替えは、単に汚れたおむつを替えるだけの時間ではなく大切なコミュニケーションの時間です。おむつが濡れた不快感から泣き出したり、もぞもぞしたり、そわそわしている時に、おむつ替えに誘います。子どもの反応から健康状態や機嫌を確かめたり、肌の触れ合いのスキンシップがとれたり、目と目を合わせて語り掛ける言葉も「気持ちいいね」と自然と温かいやり取りが生まれます。

紙おむつの長所である、不快を感じづらいことよりも、子どもの様子や機嫌を気に掛けながら不快を感じている時におむつ替えに誘い、気持ちよくなりご機嫌で過ごす。という事を日々の中で繰り返しながら、丁寧に一人ひとりと関わることで信頼関係を豊かに築いていくことを大切に考えています。

人材育成

職員自らが「やりたいこと」を汲み取る。
コミュニケーションも自然体

各クラスでは、クラスで大事にしたいことを、毎日昼15分ずつ話し合っています。気になったこととか、こういうことが難しかったよね、うまくいったよねという話をしていますね。またクラス会議、園内研修もそれぞれ月1回です。園内研修は毎年いろいろなテーマで行っています。

職員の中で自習勉強会という形でも学び合っています。また4,5歳を中心に、月に1~2回、「アートの日」を設定し、 外部の講師に来てもらって子どもと一緒に遊んでもらうんですが、保育士があまり知らないような技法を使うこともあり、とても勉強になっています。その先生にお願いして、希望する職員が参加しワークショップ形式でアートを学び体験する研修も行っています。

また、新しく入職した職員には「職員の手引き」をまず読んでもらいます。読んでも分からないときは同期や先輩に聞いたりしながら。園歌から始まって、保育目標、基本方針、セキュリティについて、会議のやり方や避難訓練、危機対応など、運営に関することが一通り書かれています。保育書類は、紙のものもありますが、徐々にICT化しています。

そのほかには「係」というものがあって、職員が自主的に動いてくれています。例えば防災係は、非常時に一番困るトイレについて、実物を買ってきて体験しようという企画を立ててくれたり。絵本係は、絵本を綺麗にしたり整理してくれたりしています。飾りつけの係もいます。園内の廊下やホールなど共有部分に季節の飾りつけをしてくれるんです。先ほどお話したアート係もそうです。行事の担当も含めて、「自分でやりたい」と思ってやってもらったほうがいいですよね。こちらからお願いすると、どうしても受け身になってしまいます。

園づくりへの想い

大人も子どもも、自分らしく
ゆったり過ごせる環境でありたい

働きやすい職場で長く働いてほしい、というのが私の願いです。時間がない中でみんな一生懸命に工夫してくれています。
保護者の皆さんとの関係も良好です。園の運営にも協力していただいて、第三者評価でも、ご理解いただいている結果をいただくことができ、心から感謝しています。配慮が必要なお子さんについても、一番困っているのは子どもなので、困っていることにどのように寄り添ってあげたらいいか、ということをいつも考えています。

こんなふうに、一つひとつではありますが、園のみんなが――子どもも大人も、毎日笑顔で安心してゆったりと過ごせたら最高ですね。そんなことを考えながら、日々できることを、みんなで考えてつくっていく、それが、さくら保育園の良さかな、と思っています。

取材を終えて

 昼間のおうちは外観も、一軒家のような門構え。
 昼間のおうちは外観も、一軒家のような門構え。

保育室はまるで、絵本の世界!見ているだけでもワクワクしてしまいました。年長児さんのパラバルーンの練習にも立ち会わせていただいたのですが、一人ひとりの誇らしげな目の輝きがとても印象的でした。何よりも、園長先生の、朗らかで穏やかな佇まい。この園に通うすべての子どもと大人が、安心して過ごせていることが何より嬉しい、という先生の想いがみんなの笑顔になり、園舎いっぱいに、いきいきと溢れていました。

この保育園の施設概要

施設名 石神井さくら保育園
勤務地 練馬区石神井町7-25-45
最寄り駅 西武池袋線 石神井公園駅西口から徒歩8分

求人募集要項

現在募集を行っておりません。

詳細はほいくbloom事務局までお問合せください。

写真でわかる!保育園の様子