まちのてらこや保育園株式会社サムライウーマン

下町に溶け込む、現代の寺子屋。
子どもも大人もありのままで過ごせる、あたたかい居場所。

豊かな下町情緒が残る東京・中央区人形町の街並みに、ひと際目を引く黄色と青色ののれんが個性的な「まちのてらこや保育園」。1クラス6人、合計30人の小規模な認可保育園です。公立保育園で長年保育経験を持ち、現役の保育作家としても雑誌などで活躍中の近藤みさき園長に、保育そして園への思いを語っていただきました。併せて、創立者で理事長の高原友美さん、建築士の石嶋寿和さんにもお話を伺いました。

まちのてらこや保育園

園長からのコメント

近藤 みさき園長

おままごとをする子どもたち
おままごとをする子どもたち

カリキュラムは、特にない。子どもと大人、みんなでつくる、育ちあう。

この園にはカリキュラムがないんです。もちろん認可保育園ですから、いろいろな書類や指導計画はありますが、職員みんなが子どもたちとつくる、そんな視点を大切にしています。

お互いに決定権を持っているからやりたいことがすぐに実行できる


例えば、子どもたちと保育士が「遠足、行きたいねぇ!」と決めたとします。年間計画にない遠足に行くとなったら、大抵の保育園では、園長の許可を取り、職員会議にかけると思います。でも「そのクラスだけ行くのはどうなの?」「他のクラスでも遠足を計画して、みんな平等にしましょう」という意見が出たりして、遠足に行けるまでに数か月もかかる場合もあるのではないでしょうか。すると、遠足に行く頃にはせっかくの子どもたちの熱も冷めてしまう可能性もあり、そうなってしまったら残念ですよね。

でもこの保育園は少人数、1フロアで仕切りがなくオープンなので、風通しがよくすぐに情報が回りやすいのがいいところです。子どもたちと担任で考えて「遠足行こうよ!」と決めたとしたら、それを聞いた隣のクラスが「あのクラス、遠足に行くらしいよ!うちも行こうよ」「じゃあ行こう」「みさきさん(園長先生はみんなからそう呼ばれています)遠足に行きます」(笑) という感じで、すぐに決まるのです。お互いに決定権を持っているという事が子どもたちのやりたい時に実現できる良さだと思います。

保育士主導ではなく、子どもたちと作り上げる


とにかくみんな、いつでもどこでも保育のことをしゃべるんです。休憩室でもずっと保育のことを話しているぐらい(休憩はちゃん取っているのですが、話題が保育になることが多いのです。)。

もちろん保育士が「こういう意図をもって提案してみよう」という事や「就学前の1年間に伝えたい事」という想いで保育を組み立てたりもしていますが、まずは目の前の子どもたちに「今、どんな姿でどんな事が必要か」を考えます。保育士が主導ではなく、子どもたちと作り上げることを大事にしています。だから、カリキュラムはなく、みんなが発案し、作り上げていくという力が大人も子どもも育っています。

大人でも、子どもでも感情のコントロールは難しいと感じることがあると思いますが、様々な感情になる子どもたちとゲームをしてみないか、と保育士が投げかけてみました。「負けること」は悔しいと思うけど、もう一回チャレンジ出来ることや、立ち直る気持ちの持ち方を体験させてあげたいと思い、ゲームを取り入れてみるのはどうだろう、と子どもたちに相談していました。「いいよ、いいよ!やろう!やろう!」と盛り上がって毎日やっています。みんなでゲームの中で、子どもたちの中にいろいろな感情や葛藤を乗り越えたり、気持ちを切り替えたりする力が生まれています。一人一人の感情にもとことん向き合っていく、そんな風に子どもの育ちに丁寧に寄り添っていくのも、まちのてらこや保育園ならではの特色だと思っています。

保育士の研修について

何よりも大切なのは、対話すること。
保育の実践こそ、生きた研修になる。

下町情緒に溶け込みながら目をひく大きなのれん
下町情緒に溶け込みながら目をひく大きなのれん

保育日誌の振り返りをきっかけに、とにかくたくさん話します

子どもたちとも対話、保育士たちとも対話、とにかく対話する事が大事だと思っています。いくら長い会議をしても、一言も発しなかった人がいる会議もありますね。まちのてらこや保育園はみんなが対話出来る関係性でありたいと思っています。お互いに発言出来る環境、雰囲気作りをして対話しやすくしています。

保育士たちは外部の研修を受けたり、私が(近藤)自ら研修を受けたりしています。そこで学んでいる事を現場で実践する事が何より大切だと考えています。「とてもいい研修だった」と感じてはいるものの、現場に落とし込めなかったらもったいないですものね。
とはいえ、最初はどうやって研修をすすめたらいいのか、振り返りの時間を設けたらいいのか、色々悩み、試行錯誤してやってきました。

会議ですが、今は1週間の予定をお互いのクラスで聞く「週案会議」を中心として、みんなで共有の場を設けています。もちろん全体で話したい事、フロアで話したい事があれば議題を上げてみんなで話し合う事をしています。会議という名目で、報告会のようになり時間を費やす会議はしていません。そして、日々が研修、日誌が振り返りだと考えています。

一番私が「この方法がいいのではないか」と思った事は、保育日誌の振り返りです。
園長になった当初は、私自身が保育に入って、長年保育畑で得たものをみんなに実践してみようと思っていました。でも、私が保育に入る事で、リーダーになってしまい、保育が成り立たなくなってしまいました。これではだめだと思い、どうやったら保育者たちとの関係性を築きながら伝えていけるのか、という事を試行錯誤しました。そこで思いついたのが、毎日書く「保育日誌への返答」でした。そもそも認可外だった時から、保育書類は揃っていましたが、認可保育園になるにあたり、書式などを全体に見直しました。どう書くか、どこを取り上げて書くのかは、とにかく実践する事にしました。

一昨年、緊急事態宣言で休園期間があったのですが、その際に、毎日職員と研修を行いました。その期間にだいぶみんな書く力がついていきました。でも、自粛期間が終わって、いざ現場に戻った時に、限られた時間内で、現場の保育の中で日誌を書く事が難しいことに気づいていきました。「あれ?あんなに書くことをしたのに、現場に戻ったら書けない・・・」と。そこで、アプリで書いているクラスごとの日誌に返答を書くようにしてみました。アプリ自体には返信機能はなかったので、私が日誌の後に記載する方法を取ってみました。日誌の文章の長さも、書き方もその人に合わせた書き方でいいと、保育者自身の「書きやすさ」を優先しました。

今は保育の中での疑問や反省を、担任が保育日誌にたくさん書いてきます。それに対して私の知識や、研修で培った事、第三者から見ての提案などを入れ込んで返信を書いています。そして、アプリなので、他クラスの日誌に目を通す事がお互いに出来る利点があります。
ベテランの先生が「ここはこうしたけど、この方法ではない方が良かった」「ここがわからなかった」等書いているのを読んで、新人が「あのベテランでしっかりしているように見える先生もこんな風に悩んでいる」という事がわかり「自分もここにわからない事を書いてみよう」という気持ちになっています。保育者との交換日記のようになっているのかもしれません。そして、アプリ上のやり取りだけではなく、場合によっては「日誌に書いた事なのだけど」と現場に入って話をする事もありますが、関わり方、言葉のかけ方等保育者がその場で実践してみるという事を側面から伝えるように心がけています。対話する事で、また新たな案が生まれ、実践していき、学び合いがどんどん生まれています。日誌とリアルでの対話、これ自体が日々の研修になっていると感じています。

事務所はガラス張りで、保育室全体が見渡せるようになっています。事務所がコーナーの一つになっている事もあります。子どもたちが困っている状態にある時などは、事務所のような空間で話を聞き、その後は担任にシフト出来るように促していきます。保育室とは少し違う空間がある事も、みんなにはいい場所なのではないかと思っています。

求職者へのメッセージ、求める人物像

その人なりの保育を認め合う、支え合える環境。
保育を知らないからこそ、いいこともある。

保育室からは、まちの定食屋さんのような調理室が見える
保育室からは、まちの定食屋さんのような調理室が見える

ここで働きたいという気持ちがあることが大切

採用時には、求職者の方の「ここで、この保育園で働きたい」という気持ちを重視します。まず園に来ていただいて、子どもたちの様子を見てもらって、「ここでやりたい」と思ってもらえた人に来てもらいたいと思っています。

「経験もないし不安です」という方には、「保育は知らなくていいんです、あなたのままきてください」と言っています。保育がわからないと思っていても、アシストをしてくれる人がいることで、保育がわからないと思っている気持ちや、経験が少ないという不安な気持ちは軽減すると思うのです。経験の長さだけではなく、お互いにサポートしたり、絶えず他クラスの事も把握できる環境にしています。

新人で、経験がないという方には、まずその人のやり方を尊重しています。例えば「あれもいやだ、これも嫌だ」と言っている子どもがいて、保育者がどう対応するのがいいのか迷いながら言葉を掛けている時に、小声で「何がしたいか、どうしたいか、聞いてみるといいよ」と伝えてみたりします。また、保育者が「子どもたちが今日はなんだかすきな遊びを見つけられず室内を走り回っていたりするなぁ」と困っている感じの時には「環境を変えてみるのはどう?1階に何人か誘ってみるとか、コーナーを変えてみるとかしてもいいかもね」と声を掛けてみたりしています。

そして、リアルな助言プラス、緊急事態宣言中の休園期間にみんなで学び合った研修資料もたくさんあるので、外部の読み物を読むのと並行して、うちの園の資料を貸し出しています。「どこかの園の事」ではなく「うちの園の事」なので、リアルに子どもたちの事を想像したり、この保育者がこういう学びの歩みを踏んできたのだとわかったりすることで、より深く学べるのではないかと思っています。

ご近所にお散歩に
ご近所にお散歩に

その人自身のカラーを消さないこと

保育を知らない異業種から来てくださる人もいます。保育を知らないからこそいいことがあります。例えば、うちでは夕方に来てくれる無資格の保育者がいいなぁと思う場面がありました。昔近所のおばちゃんが言ってたような言葉がけをしてくれたりするのが、とても良いのです。「そういうことしてると、神様が見てっからね」なんて、保育士なら絶対言わないと思うのですが(笑)、味があってこういう関わりも大切だなぁと気づかされます。

とにかく、その人自身のカラーを消さないこと、それを大事にしています。資格の有無ではなくて、その人なりでいい。すごく穏やかな人もいるし、すごくちゃきちゃきしている人もいる。皆一斉に同じやり方じゃなくてもいいんです。「子どもの個性を大切に」にと言われていますが、保育士もそうだと思うんですよね。一緒にやっているうちに、お互いにだんだんと認め合っていきます。「あのやり方は私にはできないな」と感じたり「自分はせっかちに話してしまうけど、あんな風に話すのもいいね」と感じたりすることで、自分には持っていない事に気づき、それがお互いの歩み寄りに繋がっていると感じています。

そして、全員が全てオールマイティーに出来ることを求めている職場も多くあると思いますが、うちの園はその人の得意分野を活かす方向で行事の担当を決めています。ピアノが苦手で、担当だから何か月も前から練習して、という時間を過ごす事はありません。お互いに、無理なく楽しく、個性を認め合える職場でありたいと、職員間で共有しています。

これからもいつも発展途上で、大人も子どもも一緒に作っていく「まちのてらこや保育園」でありたいと思っています。

理事長からのコメント

高原 友美さん

現場に寄り添うみんなの理事長は、商社出身のキャリアウーマン

女性たちが人生を自由にデザインできるような社会づくりをサポートしたいという想いから、運営母体である株式会社サムライウーマンを設立しました。そして、たくさんの方に関わってもらいながら子育てすることが女性の生きやすさにつながるのではないかと考え、まち全体で子どもたちを育てる「まちのてらこや保育園」を立ち上げました。

当初は認可外保育所としてスタート。当時は毎日が試行錯誤で、とにかくお子さまを安全にお預かりして安全にお返しするかということで精一杯の日々でした。

2020年4月から認可保育所に移行しましたが、デジタルツールを活用して保護者や保育者の負担を軽減することや保護者の方と丁寧にコミュニケーションを取りながら一緒にお子さまを育んでいくという姿勢は、今もしっかり受け継がれています。

近藤園長(みさきさん)に出会い、2年の引継ぎを経て今では近藤園長を中心に充実した保育を作っていく体制が整いました。

通ってくれている子どもたちや保護者のみなさま、現場の保育者や一緒に子どもたちを見守ってくださる地域の方々、みんなのおかげで今のてらこやがあります。とても幸せなことだと思っています。

建築士さんからのコメント

石嶋 寿和さん

建築士さんはご近所さん。夢とこだわりが詰まった園舎には工夫がいっぱい

人形町は、豊かな下町情緒が残り、人との関わりが色濃い町です。実はうちの事務所はここから歩いて2分のところにあるんですよ。(そもそもの出会いのきっかけなど教えていただく)認可外保育所を運営しながら内装を全面的につくりかえなければならなかったため、まずは2階の既存保育室でこれまでどおり保育をしながら1階を工事し、1階が完成したらお引越ししてもらい、2階の工事を行う、というやり方で作り変えました。関係法令や保育所の設置基準に適合するようにするのがとても大変でした。

大きな黄色いのれんは、すでに街のランドマークになっていましたので、これまでどおり掲げられるようにしました。認可保育所としての安全性や機能性も持たせながら、まさに「てらこや」にふさわしい和風のデザインを追求しました。小さな園舎ですが、子どもたちがワクワクするしかけをあちこちにちりばめました。私自身、たくさんの子どもの施設を手掛けてきましたが、大きな新築園舎に負けない、自分自身を代表する園舎にもなりました。

取材を終えて・・・

「下町情緒と人情があふれる保育園」

左/理事長の高原友美さん 中/建築士の石嶋寿和さん 右/近藤みさき園長
左/理事長の高原友美さん 中/建築士の石嶋寿和さん 右/近藤みさき園長

のれんをくぐると、そこは、決して広くはないけれど、一人ひとりがのびのび過ごせる居場所。あったかくて、居心地がいい空間。保育園を支えているのは、創立者である理事長と園長先生の絶妙な連携プレー。そして信頼関係。そしてそこで過ごす人々が、みんなで頭を寄せ合って、考えて、暮らしています。下町情緒と人情があふれる「まちのてらこや」。Instagramでは、園長自ら保育の様子を発信。それを見て訪れる保護者や保育士も多いとか。ぜひチェックしてみてください!

・まちのてらこやInstagram @ machinoterakoya

この保育園の施設概要

施設名 まちのてらこや保育園
勤務地 中央区日本橋富沢町4番1号 ミズホビル地下1階~2階(保育室1・2階)
最寄り駅 東京メトロ日比谷線・都営浅草線 人形町駅 徒歩3分

求人募集要項

現在募集を行っておりません。

詳細はほいくbloom事務局までお問合せください。

写真でわかる!保育園の様子

  • トイレ
  • 壁一面の絵本棚。子どもたちがお気に入りをいつも並べている。
  • ボルダリングウォール
  • カラフルな屋内階段
  • 瓦の小庇と漆喰のなまこ壁で仕上げたエントランス。切長型提灯は地元で調達。